『エロゲーとわたし』 連載第十八回

  2000年8月31日。
 今回は予告によれば『蛍地獄篇!!』だな。なんか昔『黄門じごく篇』と言うのを中津健也が連載してたのを思い出す。そう言えば新しい水戸黄門は石坂浩二らしい。そんな事はどうでもいいですね。はい、本題。
 まぁ先週書いた様な訳で『輪恥』の制作が始まって、ヒロイン『天城蛍』のキャラデザも上がり、絵コンテだってH氏鬼畜でバッチリ外道に上がった訳で、なんだか順調陽当たり良好みたいですが、実はそうでもなかったんです。
 字コンテを提出した時には、だいたいプロットは出来ていました。と言ってもそう精密な物じゃ無くて紙に書いた系統樹みたいに見える図で、『ここでこういう選択肢を選ぶと、数値がほにゃららでルートがこちゃらへ』と言う単純な奴でして、この程度だと後で泣きを見るのですが、ちなみにいつも俺は後で泣きを見ます。『女郎蜘蛛』なんか泣きだらけ。
 ですがその段階で既に俺は不吉な物を感じてたんですよ奥さん!! この『輪恥』と言うゲームは『天城蛍』と言うプレイヤーキャラクター兼ヒロインがイジメられまくり、このイジメに対してどう対応していくかでシナリオが変わっていく訳なんですが・・・イジメっ子がイジメから解放されるというプロットが書けなくて書けなくて困ってしまったんです。
 小さなゲームとはいえマルチエンディングなんだから、プレイヤーの選択肢の選び方によってはイジメから解放されると言う展開も欲しかったんですが、イジメられっ子がイジメから解放されるというプロットがどうしても思いつかなかったのです。才能が無いんじゃないか? あうぅ、それは言わない約束。

 まず思いついたのは、別の子がイジメられるよーになって蛍は解放されるという物でした。確かに現実的で、リアルなイジメと言うのはそういう物でしょう。
イジメられっこを庇った奴が、今度はイジメられる様になり、今までのイジメられっこがイジメる側になると言うのは、良く転がってる現象なようです。
 でも、これオチとして陰惨すぎるし、第一プレーヤーは開放感よりも後味の悪さしか感じないでしょう。という訳で却下。
 次はイジメっ子達が蛍に飽きて、イジメが止むと言う物でした。これも現実的ではありますが、オチとして陰惨な事には変わりません。イジメっ子は、何の罰も受けずイジメを続け、蛍は脅えつつけるか要領よく立ち回る事を覚えて、自分もイジメに参加するようになる・・・やっぱり後味悪いので却下。
 その次に思いついたのは、蛍を好きな男の子が出てきて、イジメから蛍を解放してくれると言う白馬の王子様なオチでした。きっと永遠を見せて彼女を救ってくれるのです。王子様に憧れた蛍は、自分が王子様になるべく頑張る・・・というと某アニメになってしまいますが、これも気が進まなかったのです。
 何故かと言えば、イジメから解放してくれる格好いい男と言うのが想像できなかったのです。たった一人の女の子を守るために、クラス中を敵に回す・・・そんな気高いと言うか無謀というか真っ直ぐ君なキャラ・・・少なくとも俺は思いつかんね。だいたいイジメする側は複数に決まっています。『悪夢の恥辱LESSON』構想の初期段階では、プレイヤーの視点はイジメ側、語りの主体は『僕達』にしようと思っていたくらいです。複数の人間に一人で対決すると言うのがまず大変です。昔みたいにイジメっ子の親玉と差しで対決して勝てば、泥まみれで傷だらけになったあげく夕日をバックに友情がめばえると言う程、世の中単純じゃありません。ジャイアンが居無くて複数のスネ夫だけしか居無い救いがたい
世界です。
 しかも彼らは本能的にイジメの力学を知っています。この力学は簡単で、イジメられっ子と言う犠牲者がいれば、自分はイジメられる危険が減るという物です。
だからイジメに遭わない為には常に自分以外のイジメられっ子を必要とします。
逆にイジメられっ子もそれを知っています。そういうイジメられっ子、イジメっ子に割って入る訳です。自分以外の誰かが常にイジメられっ子である必要があるイジメっ子と、自分以外の誰かをイジメられっ子にしたいイジメられっ子、この二者から見れば、割って入って来た奴は非常に良いターゲットです。いちゃもんをつけて正義感を気取っていると言う事で、イジメる理由はバッチリですし、イジメられっ子にとっても、別の人が生贄になれば助かる訳ですから、こちらもOKです。かくして注意した王子様は、イジメられっ子になる訳です。
 でも、このままだとラチがあかないので、そういう奴がいるとしましょう。で、そいつが蛍に惚れるだろうか・・・と言うと・・・ここで俺は困ってしまったんですよ。旦那。
 垂れ目で、おどおどしていて、はきつかなくて、眼鏡で、勉強が出来るわけでもなく、とろくて、自罰的で、嫌な事は深く考えず、ありもしない希望を勝手に夢見て現実を見ず、しかも天然でイジメて光線を撒き散らす女・・・。

             駄目じゃん!!

 少なくとも俺は惚れないね。俺は気が強い吊り目キャラが好きさ。口が達者な女も大好きさ。でも蛍はどれでも無い。蓼食う虫も好きずきと言うから、こういう女に好き好き大好き君もいるかもしれないが、この女のドコが魅力的か俺には全くさっぱり解らない。逆にどうしてイジメられるかは良く解る。きっと俺だったら見ているだけで苛々すると思う。さすが、イジメられっ子キャラとして創造しただけの事はあると自分でも感心したが、余りにも完璧に作りすぎて好きな所が何一つ無い。これには困った。

 どうもこの方向で考えても未来が無さそうなので、路線を変更。
 先生に相談する・・・先生が頼りにならない事は誰だって知っている。チクったと言って更にイジメが陰湿になるのがオチだ。下手すれば先生がイジメに加わる事だってある。少なくとも俺は先生が生徒を助けてくれるなんて信じないのだ。
だが、現実現実と言っていると道が無いので、先生にイジメられている事実を告げて転校させて貰うと言うオチを作った。
 だがイジメっ子に何の罰も無く、イジメられっ子だけが追い出されるというのはどうもスッキリしない。そこで蛍が転校すると、今度はイジメっ子達がイジメの標的になると言うプロットを考えてエンドの一つにしたが、これも余り明るいエンドとは言えない。
 では親に相談すると言うのはどうだろう・・・これも先生と同じくらい頼りにならないのが現実だ。
だが、ここでも現実現実と言うと道が無いので、親にイジメられている事を告げると、親が怒って警察にイジメっ子達を告訴するするというプロットを作った。新聞沙汰になると、今度はイジメっ子達が生贄にされて、学校中からイジメに遭い、イジメっ子のリーダーが自殺に追い込まれるというエンドを作ったが、これも陰惨である事には変わりない。

 どうも、俺はイジメと言う問題を、現実から離れて考えられないらしい。自分がイジメられっ子に近い立場にいた事から真面目に考えてしまうのだ。俺がこの題材に手を出すべきでは無かったと、この段階で悟ったが後の祭り。今更どうしようも無かった。

 蛍が強気に振る舞って、必死にイジメっ子達に抵抗して最後はイジメっ子を倒すと言うのはどうだろう? 開放感もあるし俺的に悪くは無いが、大きな問題があった。蛍の性格からすれば、強気に抵抗するなんて有り得ないという事だ。このはきつかない奴め!! そこで俺はプレーヤーが強気な行動の選択肢を選ぶと性格が強気に変わるというギミックを加える事にした。これは名案だと思ったのだが・・・結局一つの場面に性格によって幾つもの文章を用意しなければならなくなり後で泣く羽目になったのはいうまでもない。

 色々とエンディングを考えた・・・だが俺は満足できなかった。
 文句無しのハッピーエンドが欲しかったのだ。
 白馬の王子様、笑っちゃうけどいいじゃないか、完全無欠のラブラブハッピーエンド!! イジメっ子どもは撲滅され、蛍は幸せになり愛される・・・陳腐だけどゲームの中くらいそれくらいあってもいいじゃないか、と思ったのだ。
 取り敢えず理科の教師が蛍を助ける事に無理矢理決めた。プロットにもそう書いた。だがどうやって助けるかは皆目見当がつかなかった。
 シナリオを書いている途中もこの問題が頭を離れなかった。色々と現実的な事を考えて全て駄目だった。キリヤマさんが描いた理科教師浜野はどうみても格好いいと言うより妖しい人にしか見えなかった。
 蛍が浜野の事を嫌っているエンディングで、ついに俺は切れた。余りにシリアスな事を書こうと努力し続けてショートしてしまったのかもしれない。会議が真面目に進行していると、どうでもいいギャグを言いたくなる心理にも似ている。
 浜野はキャラデザの通り、マザコンで狂人で講堂の地下に秘密基地を持っているマッドサイエンティストになってしまった。
 イジメっ子と蛍を秘密基地に監禁し、人体実験を繰り広げて、蛍を巨乳に改造してしまうのだ。
 ここまでやると、なんでもOKな気分になったね。
 蛍を浜野が助けるエンディング。OKOK!! 奴はまともじゃない。キャラデザだってどう見ても変人だし、もうマッドサイエンティストにもしてしまった。
さすがにこのままだとハッピーエンドに相応しくないから、ハッピーエンドの時にはマザコンじゃ無くして、蛍を誠実に愛している危ない奴にしてしまおう!! 
理科教師特有(?)の科学力でイジメっ子どもを人工衛星からのレーザー攻撃で皆殺しにして、コンピューターのデータをハックして、イジメっ子の親どもを破滅させるくらいパワフルな奴にしてしまえばいい!! そんな奴なら俺にはどこがいいか解らない蛍の事も愛してくれるだろう。決まった決まった助かった。
 そう言う訳で理科教師浜野はすっかりセンスオブワンダーな人物になってしまったのです。バリアーは張るわ、『アーマゲドンホール!!』とか叫んでレーザー攻撃はするわ、空中を浮く車は持っているわ・・・やりたい放題。

 これで『輪恥』は一気に現実性を失い、イジメを不真面目に扱った嫌なゲームと言うレッテルをユーザーにはられてしまいましたとさ、ちゃんちゃん。

 今から考えれば、最初の立脚点が間違い。
 つまり、現実のイジメはどうこうだから何て考えずに、ゲームの舞台装置としてのイジメとして割り切り、誰か勇敢な男の子が出てくる事で解決する程度のイジメにしておいて、蛍の性格にもどこか可愛らしい所を与えておけば良かったのだね。そうすれば、こんな事で悩む事も無かったのだ・・・・・・。反省。

 苦いよ。本当にこのゲームは苦い・・・それでも『女郎蜘蛛』よりは、ね。

 ってな所で今回は、お・し・ま・い!!

BY ストーンヘッズシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。

PS        来週の『エロゲーとわたし』は?

         あと一回くらい『蛍』の事やろうかな。
            ディレクターは消えるわ、
          プログラマーは倒れるわ大騒ぎ。

              来週もよろしく。

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